生活

フィンランド・ベーシックインカム実施実験

こんにちは、おにぎりパンです。

前回の記事ではベーシックインカムの基本的な情報をまとめました。

今回は、前回の記事を書くきっかけにもなった、フィンランドで行われたベーシックインカム実施実験の初年度報告書(2019年2月8日公開)の内容や読んで思ったことなんかをまとめたいと思います。

フィンランドでのベーシックインカム実験の概要

前回の記事にも書いてありますが、フィンランドでは2017年1月から2年間に渡ってベーシックインカムの実験を行っていました。

今回はフィンランドの実験についてのみ扱うつもりなので、少し詳しく実験条件を書いてみましょう。

 

実験内容は、以下の通り

実験期間:2017年1月1日~2018年12月31日まで(2年間)

ベーシックインカム支給額:月額560ユーロ(約7万円)

対象:
2016年11月に労働市場補助金もしくは基本失業手当を受けた25歳~58歳(ただし、臨時解雇は除く)
・その中から2000人をランダムに抽選
・男:女=52:48(%)
・年齢構成
25~34歳:30%
35~44歳:39%
45~58歳:41%
比較対照群は2016年11月の補助金・手当の受給者でベーシックインカム受給者に選ばれなかった人達

実験方法:
上記期間中、上記条件で選ばれた2000人は月額560ユーロを無条件に支給される
・実験対象者の名前や年齢、個人ID、就職状況など情報は行政と研究グループが共有する
実験対象者は、定期的に幸福度や健康状態をチェックされる

結果の報告:結果報告は2019年~2020年にかけて段階的に発表していく

「2018年でフィンランドのベーシックインカム導入実験が中止になる」と報じられていますが、一応実験自体は期間を満了した形となります。(私も勘違いしてました)

今後の新たな実験を続けないという意味の記事です。

そして、当初の予定通り、2017年度の結果報告書が2019年2月8日に発表されました。

 

中断の理由

先ほども述べたように、フィンランド政府はこの実験をもってベーシックインカム導入実験を中断する決断を下しました。【原文

理由は、「ベーシックインカム導入による本当の効果を見極めるのが困難なため」です。

記事中に以下のように書いてあるように、大規模な社会実験なので正確なデータを得るためにはもっと長期的な実験とそれを実現するための予算が必要になるでしょう。

 

ベーシックインカムの専門家であるオリ・カンガス教授は「このような大きな実験から結論を導き出すのに、2年という期間は短すぎます。信頼できる結果を得るには時間とお金をかけるべきです」と話しており、判断が早計であることを示唆。

フィンランドの「ベーシックインカム実験」が2018年12月で中断 より

 

今回の実験中断はフィンランド政府がその予算を渋った形になるのだと思います。

 

初年度報告書の内容

実験の延長こそ叶いませんでしたが、当初の予定通り実験は遂行されたことになります。

そして、その実験の初年度報告書が2019年2月8日に発布されました。【原文

 

大まかな内容としては以下の通りです。

・結果の内容は2017年(実験初年度)のもの
・ベーシックインカム受給による雇用促進効果はなかった
・ベーシックインカム受給者は受給していないグループよりも幸福度が高い傾向がみられた
・この結果はあくまでも予備的なものであり、この情報だけでベーシックインカムの効果を論じることは不可能である

 

細かいデータは以下の通りです。

 

Fig.1 ベーシックインカム実験の結果(原文の図を日本語訳したもの)

 

上の図は報告書に載っていた図を勝手に日本語訳したものです。

記載されている内容は「健康状態の自己申告」「感じるストレスの程度」「失業保険受給の手続き意識調査」「平均雇用日数」「自営業からの収益」の5つのデータが載っています。

いずれのデータも「ベーシックインカム受給者(Experiment group)」と「対照群(Control group)」を比較しています。

 

ベーシックインカムに雇用促進効果はない

報告書では「ベーシックインカムは雇用促進にならなかった」と記載されたいます。

この根拠となっているのが、労働雇用研究所のOhto Kanninen氏のコメントです。

Ohto Kanninen氏は報告書中で「データ分析から、労働市場での採用にベーシックインカム受給者と対照群で差はみられなかった」とコメントしています。

‘On the basis of an analysis of register data on an annual level, we can say that during the first year of the experiment the recipients of a basic income were no better or worse than the control group at finding employment in the open labour market’, says Ohto Kanninen, Research Coordinator at the Labour Institute for Economic Research.

Preliminary results of the basic income experiment: self-perceived wellbeing improved, during the first year no effects on employment より

 

また、ベーシックインカム受給者と対照群で平均雇用日数を比較すると、受給者のほうが平均雇用日数が0.39日長いことが示されています。(Fig.1 右上 or Fig.2)

 


Fig.2 2017年平均雇用日数

 

同様に、自営業からの収益を比較すると、ベーシックインカム受給者の収益が21ユーロ(約3000円)低いことがわかりました。(Fig.1 右下 or Fig.3)

 


Fig.3 2017年自営業からの収益

 

しかし、自営業で収益があった比率を比較するとベーシックインカム受給者のほうが、1ポイント高かったそうです。(43.70%および42.85%)

The proportion that had had earnings or income from self-employment was approximately one percentage point higher for the recipients of a basic income than for the control group (43.70% and 42.85%).

Preliminary results of the basic income experiment: self-perceived wellbeing improved, during the first year no effects on employment より

 

いずれにしても、これらのデータはあくまでも予備的なものであり、これだけでベーシックインカムの効果を議論することはできません。(要はデータ不足)

サンプルが1つだけではその差が有意なものかどうかも判断できませんからね。

 

ベーシックインカム受給者は幸福度が高くなる

実験終了直前に行われた電話調査によると、ベーシックインカム受給者の幸福度は対照群に比べて高くなる傾向がみられました。(Fig.1 左半分 or Fig.4)

 


Fig.4 ベーシックインカム導入実験の幸福度調査

 

調査によると、健康状態について「大変良い」「良い」と答えた比率は、ベーシックインカム受給者のほうが対照群より9ポイント高くなりました。(受給者56%に対して対照群47%)(Fig.4)
※原文では55%と46%となっていますが、今回はグラフのほうを信じています。

また、ストレスレベルに対しても、受給者のほうがストレスを感じている比率が低くなりました。(Fig.4)

 

そして、これらのデータについて、Kela(フィンランドの社会保険機関)の主任研究員MinnaYlikännö氏は以下のようにコメントしています。

ベーシックインカム受給者は、再就職活動に自信を持っていました。さらに、社会保障給付金を請求する際には煩雑な手続きが少ないと感じ、「ベーシックインカムが求人の受け入れや事業の設立を容易にする」というベーシックインカムにポジティブな意見が対照群よりも多いと感じました。

‘レジスタ分析と調査の結果は矛盾していません。ベーシックインカムは短期的にはその人の雇用を改善しないとしても、受給者の幸福にプラスの影響を与える可能性があります」

The recipients of a basic income were also more confident in their possibilities of finding employment. In addition, they felt that there is less bureaucracy involved when claiming social security benefits and they were more often than the control group of the opinion that a basic income makes it easier to accept a job offer or set up a business.

‘The results of the register analysis and the survey are not contradictory. The basic income may have a positive effect on the wellbeing of the recipient even though it does not in the short term improve the person’s employment prospects’, says Ylikännö.

Preliminary results of the basic income experiment: self-perceived wellbeing improved, during the first year no effects on employment より

 

 

私の意見

以上の話を受けて私が感じたことや思ったことを書いていきます。

 

初めに意思表示をしておきますが、私は今回の実験が無意味なものであったとは思っていません

実験は大体が Try & Error(ネイティブは ”Trial & Error” というらしいですよ!!)の繰り返しです。

「今回の実験では何もわからない」みたいな意見を多数見ましたが、今回の実験を踏まえて次回の実験をより良いものにすればいいのです。(その実験は必ずしもフィンランドでやる必要もない)

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」と演説をしたのはビスマルクでしたかね?

フィンランドが今回下した決断の理由と、得られたデータから何かを学ぼうとする人こそが賢者になれるのではないでしょうか?

 

データ不足はまだしばらく続く

今回、フィンランド政府は、「ベーシックインカムの本来の効果を評価するのが困難だから」という理由で実験の中断を決意しています。

これに対して、ベーシックインカムの専門家であるオリ・カンガス教授は「このような大きな実験から結論を導き出すのに、2年という期間は短すぎます。信頼できる結果を得るには時間とお金をかけるべきです」とコメントしています。

このことからわかるように、ベーシックインカムのデータを集めるには2年という時間は非常に短く、データ収集には不十分な期間なんです。

では実際にどのくらいの時間が必要なのか?、何年分のデータがいるのか?、何人分のデータがいるのか?など、専門家はどのように考えているのかわかりませんが、まだまだベーシックインカムに関するデータが不足していて、この状態がしばらく続くのは明らかでしょう。

 

ベーシックインカム導入実験の問題点

今回、フィンランド政府が実験中止を決断したように、ベーシックインカム導入実験にはまだ多くの問題や壁があります。

 

お金と時間がかかる

今回フィンランド政府が中断を決意した理由ですね。

この実験をするためには長い年月がかかりますし、期間が長ければ、その間にかかる費用も大きくなってしまいます。

データが1年に1つしか取れない以上これは仕方のないことです。

化学という分野で実験をしている感覚では、やはり、最低でも同じ実験条件で3データ(3年分)は欲しいと感じてします。(多ければ多いほどいいです)

また、こういった実験と化学や物理の実験との最大の違いにして、面白くもあり、難しくもある点なんですが、人間の感覚ってどんどん変わっていくんですよね。

つまり、慣れちゃうんです。

 

化学の実験はしっかり慎重に同じようにやれば、何回やっても同じ結果を得られます。(再現性ってやつですね)

でも、社会実験ってそうはいかないでしょ?

ベーシックインカムを10年続けたとして、1年目はすごくうれしいかもしれません。

今までなかった保障が無条件でもらえるわけですから。

じゃあ10年間ベーシックインカムをもらい続けて、その幸福感は10年後も続いているの?

おそらく続かないでしょう。

 

人間を初めとした生物の多くは環境に慣れてしまうんです。

だから、その分だけデータのばらつきも大きくなりますし、期間が延びると効果も薄れてしまいます。(実験でも生物を扱うと驚くほどばらつきが大きくなります。)

そういうデータを評価しようとすると3年では不足でしょう。

おそらく10年20年の実験データが欲しいですし、別の先進国で同じことをしたデータも欲しいところです。

やらなきゃデータは得られないですが、「現実的にそんなことが可能か?」と言われれば、現状ではやはり難しいでしょうし、解決策も見つかりません。

 

国が主導するとどうしても不公平に感じる国民が出る

今回の実験では「失業者」を対象にしたわけですが、当然「国民全員を対象にすべき」という意見が出たみたいです。

今回の実験例だと、「失業者」の中から2000人をランダムに選ぶという方式を取っているので、「失業していたからこそ国からお金をもらえるチャンスが得られた」と考える人も出てくるわけです。

それに、やっぱり他人が甘い蜜を吸っているのを黙ってみていられるほど、人間は穏やかな生き物ではありません。

国民としては「政府は国民を平等に扱うべき」と考えるでしょう(ベーシックインカムは全国民に平等に給付を行うシステムですから、今回はなおさらでしょう)

また、国としてはどうせなら弱者を救いたいわけです。

どっちの意見も理解できますし、どちらも正しいと思います。

でも、全国民にお金を配るには予算がかかりすぎるし、現実的ではないでしょう。

大体どういう場面でもそうですけど、満場一致の円満解決なんてあり得ませんからね。

ベーシックインカムという国民全員が受給権利を持つ政策の実験だけに、この辺の話は実験する側も慎重になったほうがいいかもしれないですね。

 

 

全体でやるには予算がかかりすぎる

実験が中断された理由に1つは「ベーシックインカムの本来の効果がわからないから」といっていますが、予算の都合もあったのではないでしょうか?

 

今回フィンランドで行われてた実験には2年間で2000万ユーロ(約25億円)の予算がつけられていました。

今回の実験条件で必要資産を計算してみると

2000(人) × 560(€/月) × 24(月) =2688万ユーロ

となり、688万ユーロ足りないこととなるのですが、まあいいでしょう。

 

フィンランドは現在、福祉がかなり手厚い国の代表でもあり、社会保障費がGDPの30%を占めているといわれています。

外務省HPによるとフィンランドは人口は約550万人で、GDPが2238億ユーロだそうです。(2017年)

GDPのうちを除いた25%が社会保障費とする(医療費5%を引いてます)と 2238(億€) × 0.25 =559.5億ユーロ が社会保障費として使われていることになります。

 

もし、今回と同じ実験を国民全体で行った場合には、年間で369.6億ユーロが必要となります。

550(万人) × 560(€/月) × 12(月) = 369.6(億€)

この金額はフィンランドの社会保障費の66%(2/3)と同等の金額であり、GDPの16%相当でもあります。

かなりお金がかかりますね。

 

ちなみに、今の社会保障費をすべて、今の社会保障を全部ベーシックインカムにしたとしたら、月額約850ユーロ(約10万円)配れる計算になります。(日本の場合は約5万円になります)

フィンランドの社会保障費すげーな!!

 

いずれにしても可能ではありますが、実験でここまで予算を割くことはあり得ないでしょう。

 

先進国で実験をするのは難しい?

先ほども述べたように、先進国では物価や生活費が高くなってしまうことから、予算がバカにならないくらい高くなってしまいます

そして、ベーシックインカムの実験はどうしても長期的に継続しなければ、データが集まらず、信頼できるデータを得ることができないという問題を抱えています。

現代の先進国の多くが民主主義を取っている関係上、このロングスパンの実験を続けるというのは結構難しいのではないかと思うわけです。

予算の大きな長期間にわたる実験をやっていたら、国民の支持が落ちて政権交代からの実験中止なんてこともカナダで実際に起きていたりするわけですからね。

 

実的な実験手法は?

では現実的にベーシックインカム実験を行うのに最適な環境はどうなるのでしょう。

やはり、理想は 「先進国 × 大規模 × 長期間」 ではないでしょうか。

しかし、先ほども述べたように、先進国では資金面で 大規模・長期間 の実験は難しいでしょう

なので、 「発展途上国 × 大規模 × 長期間」 が一番現実的ではないかと考えています。

 

以下に、私が一番注目しているケニアでのベーシックインカム実験例を紹介します。

 

ケニアの実験例

ケニアではケニア政府ではなく「GiveDirectly」というアフリカ諸国を中心に活動する非営利団体が主導して、ベーシックインカムの実験を行っています。

実験内容は、以下の通りです。

・村を4グループに分ける
・40の村には毎月22.5ドルを12年間支給
・80の村には毎月22.5ドルを2年間支給
・80の村には2年分のお金を一括で支給
・残りの村は何も受け取らない
・ベーシックインカムの対象は各村のすべての成人
・実験の規模は16,000人以上

実験にかかわる正確な人数や必要な予算などはわかりませんが、ここでは簡単などんぶり勘定をしてみましょう。(日本円で計算します)

条件は16000人が月額2500円(約22.5ドル)を受け取るとして、必要となる年間予算を算出します。

16000(人) × 2500(円/月) × 12(月) = 4.8億円/年

約5億円が年間で必要となります。

これを大きいと考えるか小さいと考えるかは人それぞれですが、フィンランドの実験では2年で約25億円(年間12.5億円)だったので、その半分以下ですね。

 

また、3年目からは40の村に絞って実験を継続するそうです。

対象の村が200だったのを40に絞るわけなので、必要経費もおそらく1/5になるでしょう。

ということは3年目以降は年間1億円ほどで実験を行えます

これは比較的安上がりなのではないでしょうか?

ビットコインが流行っていた時期は億り人なんて言葉も流行ったくらいですし、今年の頭にZOZOTOWNの前澤社長がTwitterで一億円をばらまいています。

つまり、前澤社長をバックにつければ、実験は問題なくできるのです!(個人資産クラスでも大規模実験が可能)

 

そして、注目すべきは、この実験はケニア政府ではなく非営利団体の「GiveDirectly」が行っている点ではないでしょうか。

これにより、政府が国民からヘイトを集めることもありません。(ただし、政府から中止要請などを受ける可能性はあります)

 

それに、現代社会は文字通り情報化社会で、インターネットやクラウドファンディングを使えば、この実験に出資する人は結構いると思います。

以上の理由から、現在行われているベーシックインカムの実験ではこれが一番安定した方法なのではないかと個人的には考えています。

 

ただし、問題点もやはりあります。

やはり、一番大きいのは、先進国と発展途上国ではベーシックインカムの効果が異なる可能性がある点ではないでしょうか。

当然のことではありますが、先進国と発展途上国では環境や人々の考え方、文化など相違点が多数あります。

そういう点を理解してケニアでの実験結果を見る必要があるでしょう。

 

また、政府の介入も否定できません。

やはり、国内で政府と直接関係ない団体が何かをすることを嫌う国もあるでしょう。

 

まとめ

今回、フィンランドのベーシックインカム実験の報告書を受けて、長々と書いてきましたが、いかがだったでしょうか?

少しでも皆さんが考える役に立てばと思います。

 

今回の要点をいかにまとめます。

要約

・フィンランドでのベーシックインカム実験の初年度報告書が発布された
ーベーシックインカムは雇用促進効果はない
ーベーシックインカム受給者は幸福度が高くなる傾向があった

・ベーシックインカム実験を先進国で行うのは現実的ではないのではないか?
ー一番現実的で効果的な実験は「発展途上国 × 大規模 × 長期間」
ーケニアの実験は現在の理想モデルかもしれない

 

これらはあくまでも私個人の意見であり、そして私は経済の専門家でもなんでも何でもない、しがない学生であることをご承知おきください。

ではでは~ノシ

 

ABOUT ME
おにぎりパン
名前:おにぎりパン 年齢:アラサー 生息地:石川県産,広島在住 職業:大学院生 趣味:旅行,映画,ラジオ